キャッシュレスは日本にとっての大きな経済テーマです。

2018年に経済産業省より「キャッシュレスビジョン」が発表されました。その背景には、日本のキャッシュレス化の遅れがあります。インバウンドの急増もあって、旅行者の購買時にキャッシュレス対応が要望されています。キャッシュレス化によるさまざまな社会コストが低減されることも期待されています。

先進国スウェーデンと韓国

スウェーデンは急速にキャッシュレスかが進んでいます。GDPのわずか1.7%が現金の流通となり、大手銀行が共同開発したスマホアプリが同国の決済インフラとして定着し、19〜23歳の利用率は95%になっています。店頭では、現金使えません等の看板やサインがあるほどです。雪国で現金輸送コストが高いこと、銀行強盗が多発したことなど原因はいろいろとあるようですが、利便性に国民が気がついたということかもしれません。中には身体にICチップを埋め込んで利用している人がいるほどです。スウェーデンではATMも撤去されており、銀行等にとってもコスト削減につながっています。

韓国ではクレジットカードの普及により2016年の調査ですでにキャッシュレス化は89%となっています。韓国では1997年の通貨危機の後、国がクレジットカードの普及に取り組み、消費者には、300万ウォン(約30万円)を上限として、年間のクレジットカード利用額の20%を所得控除できるようにしました。一方、事業者(加盟店)に対しては、クレジットカードの取り扱いを義務化しました。また最近はスマホによる簡便決済なども浸透しています。

韓国で特徴的なのは、コインレス化です。500ウォンが約50円、1ウォンは約0.1円の価値と製造流通コストがあわない状況で、つり銭が死蔵されているケースも増えています。コンビニなどでつり銭を小銭でなくT-moneyカードといわれる交通カードにチャージできる仕組みをテスト事業としておこなっています。地下鉄ではT-moneyカードに紙幣でチャージして利用するように徹底されコインは使えません。ほとんどのタクシーでもT-moneyカードが使えます。韓国ではコインの発行や処分に70億円以上のコストをかけていますので、コインレスが進むことで社会コストの大幅な削減となります。

中国の状況

中国は金融インフラや通信インフラが十分に普及しておらず、店舗等での固定回線を使ったカード決済がしづらい状況にあります。また偽札や偽カード問題もあり、最大の通信インフラとなっているモバイル端末=スマホを利用した決済が誕生しました。ネット販売の大手アリババが決済手段としてはじめたアリペイはQRコードをスマホで読み取り、消費者のスマホのネットワークを通じて決済をします。店舗側はQRコードを用意するだけで、機器等の設備投資はありません。消費者もスマホに金額をチャージしておけば現金を持ち歩く必要もありません。アリペイの利用者は10億人を超え、さまざまな生活アプリと連動しているため、アリペイの中で商品購入やサービスの利用等が容易にできます。たとえば、保険、トラベル&レジャー、レストラン予約、買い物、タクシー予約、エンタメ、映画チケット、携帯料金、公共料金、振込み、お年玉、個人間送金などが利用できます。また、余額宝というアリペイに預金的なものができ、利率は4%となっていて、銀行離れも進んでいるようです。

日本の状況

日本では中国と違い、金融インフラが充実しており、ATMはコンビニを含めると相当な普及をみせています。治安もよく、偽札の心配もあまりありません。また、クレジットカードの店舗側の手数料が海外に比べて高いこともあり、現金決済が優先されてきました。一方で、店舗側はつり銭の用意が必要で、誰かが銀行の営業時間内に両替に行ったり、閉店後に夜間金庫に売上金を預けたりと労力がかかっています。スーパーでは閉店後の現金の計算処理に1時間ほどかかっています。これらはすべて人件費にはねかえり、昨今の人手不足もあり大きな課題となっています。

最近のインバウンドの急増により、カード決済やスマホ決済のニーズが高まっています。中国人はアリペイ、欧米人はクレジットカードが多いようです。しかし、すでにあるレジでの利用をおこなうと改修費が必要となります。またクレジットカードの手数料も問題となっていますが、世界的な波は日本国内にも変化をもたらしています。

宮崎における状況

宮崎県民のクレジットカード保有率は統計では全国46位です。実際、クレジットカードが使えない店舗や飲食店が多く、鶏と卵ですが、カードの利用機会は少ないといわれています。大手スーパー、ショッピングモール、空港ビルなどではカードが使えますが、小規模店舗ではほとんど使えません。カード利用が可能な飲食店もけっして多いとはいえない状況です。また、電子マネーはショッピングモールや宮崎空港ビル、コンビニでの利用が可能で、飲食店ではチェーン店以外ではほとんど使えない状況です。

この状況は、宮崎に来る観光客や出張者にとって不便なイメージを持たれているようです。特に中心市街地にコンビニが少なく都銀のキャッシュカードが使えるATMが使いにくい状況があります。特に大都市圏から来た方や外国人の場合、クレジットカードや電子マネーを使い慣れており、その便利さを体験している方々が多く、使えないとなると宮崎は不便と思うようです。

その要因としては、やはり設備投資と決済手数料を含むランニング費用であると思われます。飲食店の場合、食材の仕入れが現金払いが多いため、手数料を払うことと、入金サイクルが長いことが、カード決済導入のネックになってきているようです。

手数料ゼロのQRコード決済

LINEが2014年にLINEPayを開始し、個人間送金などを可能としました。また2017年にはバーコード決済を本格的に始動させ、ローソンで使えるようになりました。これまでの決済方式との大きな違いは加盟店である事業者が支払うべき手数料がゼロ円ということです。2018年10月にはソフトバンクとヤフージャパンの合弁会社PayPay株式会社が設立され翌11月には手数料ゼロでの展開をはじめました。事業者側は初期の設備投資もランニング費用もゼロで決済がおこなえます。また、決済事業者間の競争により、。ポイントによるキャッシュバックキャンペーンなどが展開され、PayPay社が100億円をポイントとしてバックするキャンペーンが2度実施され、大きな反響があり、QRコード決済が普及の兆しとなりました。

観光産業におけるキャッシュレス化の効果

観光産業において、重要なテーマは観光客の誘客です。魅力ある観光地や食材、イベント等が重要なウェイトを占めますが、キャッシュレス化対応も重要視されるようになっています。それは急増したインバウンドによるものです。中国人はアリペイを使いたがり、欧米人はクレジットカードを使いたがっています。旅先で不要に現金を持ち歩きたくない、両替の手間を省きたいなどがその要因です。国内の観光客についても大都市圏からの誘客が多い状況では、前述のとおり、キャッシュレス決済を求める動きがあります。観光客にとっては、都銀やネット銀行の引き出しがしづらい、カードが使えれば予想以上の金額でもなんとかなる、カードを使うことでマイルやポイントが付加されるなどの思惑があります。

今回、この実証実験を通じて、観光産業において、キャッシュレス化が誘客や消費の拡大についての可能性を調査しております。